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ウェルネスメンター・吉川めいが考える“ヨガ”とは? 「不安なときに必要で、人を救ってくれるもの」

ヨガにジャーナリング、瞑想から食育までココロと体のホリスティックなウェルネスを提唱してきた吉川めいさん。夫や母親との永遠の別れを経験し、また二人の子供の母としても奮闘する日々のなかで、吉川さんが取り組み、乗り越えてきたものとは。
[初出:『Yoga&Fitness』vol.12]

震災、コロナ…
一番不安なときに人は一番ヨガを必要とするはず


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――ヨガを中心に心身のウェルネスを広く伝えてきた吉川さん。その出発点が、東京・南青山の「コンセプトスタジオveda(ヴェーダ)」でした。

吉川 私はインドで長くヨガを学びましたが、ヨガを通して心と身体がいかに繋がっているか、身体や呼吸を通して、いかに心を整えることが可能なのかということを知り、人生も変わりました。心と身体のホリスティック(総合的)なアプローチ、さらに言えば精神面までをつなぐトータルなものがヨガであるということを伝えたくて、ヨガスタジオとは呼ばずに「コンセプトスタジオ」と呼んでいたんです。

――スタジオでは呼吸法や瞑想、ヒーリング、食育など多角的に伝えていましたが、ここ数年は「Veda Tokyo」としてオンラインクラスに特化されていましたね。

吉川 オンラインを始めたのは2020年4月と、まさにコロナが日本に到来した時期でした。振り返ると、最初にスタジオを開いた2011年3月も、直後に東日本大震災に見舞われ、先行きが全く見えないなかで、いち早く再開しました。そんな一番不安で、一番怖いときこそ、人は一番ヨガを必要とするんじゃないかなって。それを「ヨガ」と呼ぶかどうかは別として、自分の呼吸によって自分の姿勢や心を整える。その大切さを伝えたいと思ったんです。

――そこから約10年を経て、今度はコロナ禍に直面することに。

吉川 そうなんです。使命感ではないですが、やはり自分の心に火がつく部分がありました、「今こそ伝えなきゃ」と。その時点ではプラットフォームも持っていませんでしたが、それでもブログやインスタライブなどで、どうにかして「伝える」ということを始めたんです。

――オンラインクラスは、まさに手探り状態のなか、走りながらのスタートだったのですね。

吉川 私が専門とするアシュタンガヨガも一つの呼吸、一つの動作、一つの目線を次から次へと連続で行っていくものなんです。次の動作がわからずに付いていけなくても、とにかく続ける。できるまで何度でも練習する。そういう心の姿勢を、私はヨガを通して特訓してきていたんです。だからこそ、緊急事態などに直面しても精神面で潰れることなく、臨機応変に対処できたのかもしれません。

――いち早くオンラインを取り入れたことで、心身両面で救われたという方もたくさんいたと思います。

吉川 「今まで遠くて通えなかったから、オンラインができて嬉しい」「コロナが落ちついてもオンラインをやめないでください」というお便りをたくさんいただくようになって。子どもたちの成長の節目など、パーソナルライフとの兼ね合いも考え、2021年1月からはオンラインスタジオに特化してきました。その後今年3月末までに「Veda Tokyo」の全サービスを終了、4月からは新たに会員制コミュニティ「MAE Y(メイ・ワイ)」をスタートさせるに至ったわけです。

インドでのヨガ修行時代の吉川さん。本場での学びが今の礎となっている

インドでのヨガ修行時代の吉川さん。本場での学びが今の礎となっている

自分を救ってくれたメソッドをたくさんの人に伝えたい

――お話に出ましたが、吉川さんは男の子2人の母でもあります。

吉川 そうですね。少しパーソナルライフの話をさせていただくと、私は2017年に次男を出産していますが、その翌年に夫を事故で亡くしているんです。それも自分の人生のすごく大きな転機になりました。私にとって意味があるものとは何か、これから先、どう生きたいか、どう働きたいか…自分自身の髄にあるものに戻り、問い直す期間でした。どう仕事復帰していいかもわからないというタイミングで、コロナ禍に突入してしまって。

――子育てやご主人を亡くした哀しみのなか、コロナが重なった――。

吉川 でも、そのコロナがきっかけで「伝えなきゃ」という燃え上がるような気持ちがまた沸き起こってきた。だから、みなさんは「オンラインをやってくれてありがとう。救われました」とおっしゃるんですが、実は私も救われていました。

――オンラインクラスの実現に奔走されていた裏には、そんな出来事や思いがあったのですね。

吉川 コロナをきっかけに仕事やお金を失い、不安感や不確実性に直面した人、大切な人を失い喪失感や孤独感に襲われた人もたくさんいたと思います。私も、そのすべてを体験しているからこそ、私を救ってくれた考え方、呼吸法、背骨の動かし方…自分で実践してきた〝本物〞だけを伝えることができるという確信がありました。その伝えたいことを、みなさんのライフスタイルにフィットするように企画を作り直していくなかで、「書く瞑想」というプログラムが生まれました。

40分間の「書く瞑想」で新たな視点に出会える理由

吉川さんが書き続けてきたジャーナリングノート

吉川さんが書き続けてきたジャーナリングノート

――マインドフルネスの手段として「ジャーナリング」が注目されていますが、「書く瞑想」もその手法を取り入れたものですよね。

吉川 私がヨガを始めたのは2001年、21歳のときですが、実はジャーナリングは15歳のときに始めています。ペンと紙を使って、心のなかでごちゃごちゃ、モヤモヤしているものをアウトプットして、どうにか整理したい。自覚意識を持って、心を見直すことを続けていました。その習慣にヨガが追加されたので、ヨガマットとペンとノートが、ずっと私の軸を整えるツールであり続けているんです。

――ご自身で実践してこられたジャーナリングの習慣が、「書く瞑想」のベースになっているのですね。

吉川 先生に習ったらできるヨガや瞑想、特別な場所に行ったら得られる体験といったものから、「自分軸」に沿ったものへと逆転させたかったんです。「わからないから教えて」というのを続けると、それなしでは物事を進められない「依存」状態になってしまう。そうしたセルフメンテナンスから一歩進んで、自分に問いかけ、考えること、そして自分自身で選択して生きることの大切さをお伝えしていきたいと。

――吉川さん考案の「書く瞑想MAE Y method」とは具体的にどのような手順で行うのでしょうか。

吉川 大きな特徴は「プロンプト」と呼ばれる3つの問いを、毎回のテーマに沿って私のほうからお出しする点にあります。まず、問いに沿って客観的に現状を可視化したあとに、ガイデッドメディテーションを行い、ふだんの意識状態や思考パターンからいったん離れるという体験ができます。そして3つめのプロンプトで、新しい視点や意識状態での発想を書き記して、自己確認するというプロセスを踏んでいきます。時間は40分と短いのですが、体系化されたメソッドなのでプログラム内で必ず新たな視点にたどりつけるんです。

――意外な自分に出会えそうで、ちょっとワクワクしますね。

吉川 実際、参加した方からは「自分のこんな視点があったんだ」とか「世の中ってこういう見方もあるんだ」など、はっとするような気づきがあったという声をたくさんいただいています。

抑えきれない気持ちを書きなぐった15歳のジャーナリング

――15歳からジャーナリングを始めたそうですが、心を吐き出したいような、何か大きなきっかけがあったのでしょうか。

吉川 きっかけは、両親の離婚です。私は4人きょうだいの末っ子ですが、長女はもう独立していたし、その下の姉と兄はアメリカに留学していたので、家族の問題を独りで抱えるような状態になってしまったんですね。精神的にすごくきつくて、医者に行っても改善がなく、自分の気持ちや思いの吐き出し場所がノートだったんです。

――1日の出来事をつづる日記ではなく、まさに今でいうジャーナリングを実践していた。

吉川 自分の気持ちを抑えずに、書きなぐるように吐き出すと、スッキリするんです。それに、書いたことをふと見返す距離感が持ててくると、「自分はこんな思考を、こんなに強くこれだけしつこく思っていたんだ」と、抱え込んだ気持ちに対する客観性が芽生えてきて、それが瞑想に繋がっていく。瞑想は座って客観的に観察することですから。もちろん、当時は瞑想のことなんて何も知らなかったけれど、自然とそれに近いことをしていたんですね。

――その習慣に加えて、21歳からはヨガも始められたのですね。

吉川 ヨガを始めたときも、健康状態がとてもよくなくて。というのも、両親の離婚から数年後、今度は母が脳神経性の難病にかかってしまったんです。9つの大学病院を回った結果、余命10年の宣告を受けて。まだ学生だった私には相当の重荷で、不眠や、うつに近い状態になってしまいました。そこからヨガに出会い、呼吸を整え、さらに瞑想を続けていくことで、リピートし続ける心の声とも、やっと向き合えるようになっていきました。

「なぜ私だけが?」心の執着から解放してくれた一つの言葉

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――その心の声とは? よければ教えてください。

吉川 最初は「Why?」です。なぜ私のお母さんが? なぜ治らない病気に? なぜ私が介護を? と。その次は「Why not?」。他の人のお母さんだったら…とか、母が47歳じゃなくて97歳だったら…とか。そうした考えに執着しているところから、ヨガやジャーナリングを続けるうちに心のなかに客観性ができてきて、「他の人のお母さんだったらよかったの? 自分はなんて傲慢なんだろう」と、心の姿勢がちょっとずつ謙虚になっていきました。

――耐え難いことに直面すると、「なぜ自分だけが」という悲観や「他の人ならよかったのに」というエゴから逃れられず、自己嫌悪の日々が続いてしまいますよね。

吉川 実は、私も払しょくしきれずにいました。変えてくれたのは、ある母の日にスタジオの生徒さんからいただいた一通のカードです。「今日はめいさんのお母さんに『ありがとう』を言いたい。お母さんが病気になっていなかったら、めいさんはヨガを始めていなかったし、インドへも行かず、大切な教えを私に伝えてくれることもなかったから」と。

――お母さまの存在やご病気を、そんなふうに受け止めてくれた方がいたのですね。

吉川 それを読んだときに、私は10年越しで初めて「Why」の答えが届いたように感じました。自分の心のあり方、心を開くことの素晴らしさを目の前に突きつけられたような気がして。この経験で学んだのも、やはり視点の変化ですね。

――「Why」から「Why Not」という見方になり、そこから自分の傲慢さが見えてきて……。

吉川 そして、ヨガでいえば「サレンダー」、つまり心の執着を手放すという考えに至った。こんなふうに、視点の方向を肯定的にポジティブに変化させて、詰まっているものを流すように好転させられたら、人生が大きく変わってきますよね。ヒンディー語では「ジュガード」という言葉に近いのかな。

――ジュガード……どのようなときに使う言葉ですか。

吉川 たとえば、みんなでA地点からB地点に向かう途中、予期せず断崖絶壁に遭遇した。1人は諦めて引き返し、1人はぶち切れて誰かのせいにする。さまざまな反応をするなかで、「そういえば友達がヘリを持っているから助けてくれるかも」と、その場に応じて発想を転換させたり、めげずに次の行動を起こしたりすることが「ジュガード」なのかな。

――日本語でいえば臨機応変とか、その場でできる創意工夫?

吉川 そう! 発想をつねに最大限、柔軟に持つ。これって、すごく〝ヨガだな〞と思うんです。逆に、人間はそれだけ自分の思い込みや自分だけの信念にとらわれて行動しやすい生き物とも言えますよね。どんなときも、違う意識レベルから客観視することが大切で、その特訓が瞑想であり、すべてのヨガは瞑想の準備ともいえます。先ほど夫のお話をしましたよね。彼は超健康なアスリートでしたが、本当に突然の事故で、さよならを言う間もなく亡くなりました。でも、私は母の体験をしていたから、自分でも不思議なくらい、なぜ今?なぜ彼?という「Why?」が心のなかで起こらず、それが何より救いになりました。悲嘆や哀しみは変わらないけれど、「Why ?」に執着しなかったおかげで、私は狂わなかったのだと思います。

――そうしたご自身の経験からも、「書く瞑想MAE Y method」などで心のしがらみをほぐすことの大切さを伝えている。

吉川 そうですね。その意味で、「書く瞑想」は、私が立ち直り、強く生きるうえでベースとなった考えをメソッド化したプログラムと言えるかもしれません。

執着ポイントに気づけば暮らしの質がよくなっていく

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――日常生活のなかで視点を変えるコツやヒントを、教えてください。

吉川 「How Willing are you?」。自分の視点を変えてみようという意志を、まず持つことでしょうか。自分からその可能性に心の扉を開かないと、何も始まらないと思うので。「私はけっこうオープンマインドですよ」という人も、意外に固執することだってあるんです。たとえば、あなたの夫が「いつも食べているお米に飽きたからコシヒカリにして」と言ったとします。でも、あなたにしてみれば「今まで20年間、秋田こまちなのに、今さら?」と。そんなことってありませんか?

――あります(苦笑)。そういう小さいイライラも、じつは相手のワガママというより、自分の執着が原因かもしれない?

吉川 そう、慣れ親しんだルーティンで、無意識に変えたがらないことって、けっこういっぱいあるんです。そこに気づくことが、まずはスタート地点です。他人や物事に対してイラッとしたり、ムカついたり、思い通りにいかなくて悔しかったり、悲しかったりする瞬間が、誰でもきっとあると思います。

――そこが〝執着ポイント〞?

吉川 その通りです。「こう行くはずだったのに」とか「こう行って欲しかったのに」という思いと現実とのギャップが摩擦になって、その感情が生まれているはず。だから、ネガティブな感情をきっかけに、自分がどんなことにこだわっているのかが見えるんです。それが見つかったら、今度は「相手の思いはどうなんだろう」と、より広い視野で見てみる。そして、第3のプロセスとして、「私たちはこの側面で、お互いにどうありたいか」を探っていく。これができてくると、日々の心の摩擦が減り、自然とストレスが減り、イコール病気や不調が減るなど、暮らしの質がよくなっていきます。

――「書く瞑想」も、まさにこうした気づきを深めるためのトレーニングなんですね。

吉川 毎回、一つのテーマを書いていくことは、心の部屋をひと部屋ずつお片づけしていくイメージに近いかもしれません。MAE Yでは、毎週月曜日には瞑想やマインドフルネスを学ぶオンラインプログラムも行っているのですが、参加者のみなさんは月曜日をすごく楽しみにしていますね。オーケストラでいえば、演奏する前に「ラ」の音にすべての楽器を合わせる日というか。

――なるほど、ざわついたり揺れたりした心を調整して、また新たな1週間を始める。「心のチューニング」を月曜日に行うのですね。

吉川 ただ、チューニング後の自走はご自身で、と。これまで10数年もヨガをお伝えしてきていますが、私がいないとできない、ヤワなヨガを育てているつもりはなくて(笑)。今は「私がいなくても、みなさんのヨガができるようになりましたね」という、次の段階に来た感じです。ヨガと同じく、人生も自分自身で選び、自分軸で生きることで、より輝きます。周囲に合わせて自分の心を少しずつすり減らしながら生きる人の多い今だからこそ、自分自身と向き合い、自分らしい生き方を見つけていってほしい。それが、経験からいえる私の願いでもあります。

次ページ:吉川めいさんの取材写真など(計5枚)

取材・文:藤村幸代 撮影:Ap,inc ヘアメイク:平塚美由紀 スタイリスト:エイケネス香織

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